研究拠点形成事業について
事業概要
研究交流の目的
本研究は、海域東南アジア3国(インドネシア、マレーシア、フィリピン)の防災・減災に関する情報を整理し、さらに、アジア地域研究で豊富な実績を有するオーストラリアと日本とが加わった5カ国間で、防災・減災実践に関する国際的なネットワークを構築することにより、アジア規模での防災コミュニティを形成するための教育・研究基盤を形成することを目的としています。
アジア諸国における課題
日本を含むアジア諸国は、地震・津波、台風・サイクロン、洪水・地崩れといった、自然災害の多発地域です。近年、アジア諸国は経済成長が著しく、災害による国内の経済的損失のリスクの規模が拡大しています。産業拠点が被災すると、当該国のみならず、海外にもその影響が大きくなります。また、アジア域内では、労働や教育のための国際移動が進んでいます。従来のように、各国内での国民を対象とする防災教育だけでは、災害に十分に対応できなくなっています。
日本における課題
日本は、防災・減災分野の実践において、技術面でも、また行政や住民による自助・共助・公助の点でも、優れた実績を有する防災先進国です。しかし、経済成長を遂げた先進国における防災実践は、人口移動などの社会的流動性が高い開発途上国や、高齢化が進んだ社会の災害対応においては、十分に通用しなくなっています。
国境を超えた防災コミュニティの形成に向けて
これらの2つのタイプの社会に対する防災の課題を同時に解決するためには、社会的流動性の高さを前提とし、国境を越えて、アジア地域全体での取り組みを可能にする「アジア規模での防災コミュニティ」を作る必要があります。
本研究は、社会的流動性の高さで知られる海域東南アジアの3か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン)を対象に、各国の防災・減災実践に関する情報を整理すると同時に、これに、日本とオーストラリアを含む5か国の間で、防災・減災実践に関する情報を共有する国際的な人的ネットワークを構築するものです。
海域東南アジア地域の文化・歴史・社会に通じた地域研究分野で豊富な実績を有するオーストラリアと日本の研究者が加わることにより、アジア規模での防災コミュニティを形成するための教育・研究基盤が形成されることが期待されています。
事業概要
本事業では、共同フィールドワークと国際セミナーの2つを組み合わせ、研究交流を進めます。
① 多国間枠組みでの共同フィールドワーク・共同研究の実施
② 共同研究の成果を共有するための国際シンポジウム・セミナーの実施
共同フィールドワークと国際セミナーにより、研究交流全体の情報を共有すると同時に、研究者コミュニティと一般社会の双方に対して、研究成果の発信を進めます。また、これら2つに組み込んでいく形で、若手研究者の育成を進めます。さらに、国際共同研究の成果は、英文学術書として出版を目指します。
共同フィールドワーク
共同フィールドワーク・共同研究は、毎年、東南アジアの3か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン)のうち、2地域と日本で実施し、多国間の枠組みでの研究交流を進めます。
国際セミナー
共同研究とあわせ、アジア3カ国の現地でセミナーを実施するほか、日本とオーストラリアで毎年1回ずつ、学会と連携した国際セミナーを実施します。
実施体制
日本側の拠点機関は、地域研究統合情報センターを中心に、またアジア3国の拠点機関は、シアクアラ大学(インドネシア)、アテネオ・デ・マニラ大学(フィリピン)、マラヤ大学(マレーシア)を中心に、研究交流を進めます。
事業目標
研究協力体制の構築
本研究事業が主な対象とする東南アジア社会は、社会的流動性の高さが顕著です。また、短期間に職種や所属先を変えることも珍しくありません。このため、現地カウンターパートとの協力連携においては個人的な関係を結んで進められることが多くなっています。
本研究事業では、これまでに行われてきた共同研究等によって培われてきた個別の関係をもとに、各相手国において組織的な活動として位置づけられるように働きかけていきます。また、国や地域によって主要な災害が異なるため、災害対応研究においては国ごとに中心となる分野やアプローチが異なることから、多様な分野やアプローチを含む共同研究を円滑に進めるためのコミュニケーションを含む協力体制の構築を目指します。
災害対応研究
災害対応においては、(1)国境を越えて影響を及ぼしうる広域の災害、(2)その国・地域において繰り返し発生し被害が大きく、国民的な防災の取り組みが進められている災害、(3)発生頻度は高く、地元の地域社会にとっては死活問題となりうるが、人的・経済的被害が相対的に小さいために国民全体の災害として見られることがほとんどない「小さな災害」をそれぞれ捉えることが重要です。
従来の災害対応研究では、(2)を中心に(1)を含めて取り組まれてきていますが、地域研究を基盤とする本研究事業では、(1)~(3)のすべてが対象となります。まず、それぞれの国・地域が対応すべき災害を、(1)~(3)の区別に即して明らかにし、研究対象の絞込みの参考として整理した後、研究を進めていきます。
若手研究者育成
災害対応研究は、多様な業種や専門による複合的なアプローチが必要とされ、また、多くの場合に研究対象と実践が結びつくため、若手研究者の育成にとって、たいへん有益な研究といえます。
災害対応という具体的な課題に対する共同研究およびその成果発信の機会を拡大するとともに、業種や分野を超えた共同研究の組織・運営にも馴染んだ若手研究者の育成に資するため、共同研究・研究者交流およびセミナーなど学術会合の開催の運営に若手研究者が能動的に参加できるよう、体制を整えていきます。
地域への貢献
日本側拠点機関による「災害対応の地域研究」プロジェクト(リンク)が、インドネシアで取り組んできた事例のように、現地の地方政府や報道・医療・教育関係者の参加を得たワークショップを開催し、地域研究者が仲介して現地語で議論を行うことによって、現地社会の各層に情報や知識を伝えることが可能となります。
インドネシアにおける地域貢献の手法が他の相手国でも効果的か、それとも別の手法をとるべきかについて、本事業の対象国それぞれの社会における言語状況や情報伝達・意思疎通のあり方を踏まえ、検討していきます。